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【開催記録】樋口紀美子先生セミナー バッハからショパンへ

ショパン名曲シリーズ第2弾
バッハからショパンへ ~ショパン後期作品を題材に~
樋口紀美子先生によるトーク&演奏
2015年2月11日


 昨年の秋に『ショパン名曲シリーズ』と題して樋口紀美子先生によるセミナーが始まり、2月11日に早くも2回目を迎えることとなりました。前回 のセミナーではショパンのスケルツォ全曲を取り上げ、特にフランスのノアンで作曲された後半の曲はバッハの影響が随所に見られることを学びました。そこ で、今回は『バッハからショパンへ』というアプローチから、バッハのインヴェンション・シンフォニアとショパン後期の作品を中心に音楽の本質とは何かを解 き明かすセミナーを開催いたしました。

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 樋口先生はドイツに33年間暮らし、ショパンを好んで演奏されてきました。日本に帰国してから「なぜドイツに留学されているのにフランス音楽やショパンを選ぶのですか?」とよく質問を受けるそうです。でも樋口先生にとってはごくあたりまえのことで、なぜそのような疑問がわくのか不思議に感じるそうです。というのは、バッハを原点に音楽を学ぶと、ショパンだけでなく多くの作曲家の作品においてバッハとの結びつきが深いことに気づかされるからだと言います。現にショパンも小さいころからバッハの基礎を学び、演奏会の初めにバッハを演奏していたほど。特にショパン後期の作品の中にバッハの影響が濃く出ているので、現代の私たちも音楽の本質を表現するには、調性、拍感、リズムなど極めて高度なバッハの音楽を勉強することが大切だと強調されました。

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 続いて、バッハとショパンの共通点を具体的に、演奏と共にお話を進めてくださいました。

①拍感を保ちながら自然に歌うこと
インベンションの楽譜の手引きに「楽想をとりわけカンタービレ風に弾くこと」とバッハ自身書いている。
音楽が止まらずに流れ、いい集中ができていれば、自然に演奏が楽しく感じられる。
音が上がっているか、下がっているかを心の中で感じることが大事。(インヴェンション6番)
ショパンにも通じることだが、過剰なクレッシェンドやディミヌエンドとは違う。
誤解してほしくないことは、ショパンにおいても、やたらエモーショナルに歌うのではなく、テンポルバートのように基本的拍感を保ちつつその中で自由に羽ばたくように歌うのが大事。

②調性感
曲全体の構成をみると、調性感がとても大事になってくる。(インヴェンション7番、13番)
ヨーロッパではDurは明快、かたい、はっきりした感じで、mollはやわらかい感じと捉えている。
インヴェンション13番ではa-mollで始まり、C-Durになり、その後モダンな味わいの不協和音が続き、a-mollへ戻ってくる...。
調性の移り変わり、つまり転調して最後にはつじつまが合うという手法は、ショパンの作品にも通じる。
ショパンのマズルカ作品59の転調していく様をドライブに例えると「カーブを曲がってどこか遠い海へ行ってしまい、ハッと気が付くと元の場所に戻っていた...」そのときの幸福感は何とも言えない。

③人の心情を表す音形:ラメント・バス
インヴェンション11番やシンフォニア9番に出てくるラメント・バスは、キリストが十字架を背負って歩いている姿を象徴している。
ショパン、ノクターン作品48-2でも、素晴らしい響きのラメント・バスが2回繰り返されている。これは、ショパンがバッハの対位法を本格的に勉強したことをうかがわせる。

④アウフタクトと休符
バッハの音楽を含め、ヨーロッパの音楽は基本的にアウフタクトでできている。
ショパン、ソナタ第3番作品58の冒頭も、音形からくるアウフタクトで始まる。休符の感じ方が大事。

⑤対位法
シンフォニア9番では3つのテーマの組み合わせで構成されており、演奏するときは、テーマの音量のバランス、音のクオリティーを変えることが大事。
ショパン、ソナタ第3番作品58では、さりげなく対位法が出てくる。わざとらしくない洗練された技法はショパンのセンスの良さを際立たせている。

⑥制約の中での自由
インベンションの曲はたった2ページの中にすべてが揃い、完結している。人に伝わる音楽とは、何か制約がある中でこそイマジネーション(自由)が広がるものかもしれない。
ショパンにおいても、健康状態が悪く対人関係もうまくいかない中でさえ(だからこそ?)、繊細で美しい名曲を生み出していった。

 最後に、ショパン、ソナタ第3番を全楽章演奏してくださり、夢のようなファンタジーの世界観、万華鏡のような色彩が溢れ、音楽が自然に流れる美しさに感動いたしました。同時に、ショパンの中にひそむバッハ、それを追求する中で見えてくるショパンの奥深さを改めて感じました。


(Rep:ピティナ南麻布インターナショナルステーション 野中秋子)

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